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陰翳礼讃

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本の内容は決して難しくなく、むしろ分かりやすいのではないでしょうか。
「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」は、建築設計を志す者が常に心のどこがで意識をすべき言葉のように思います。
翳りを見据えて物事を考えることは、そのままの自然を受け入れることができる日本人には大事なことです。

 

明るくてよく見えることは良いことであり、これは誰も疑うことをしません。
テレビやカメラは解像度が飛躍的に上がり、くっきりとありのままに映った画像は圧倒的な事実です。
落とし掛けの裏に間接照明を入れ、床の間を煌々と照らすことは建築設計の「常識」なのです。
暗さや闇をマイナス要素として見る昨今、建築の中にそれとわかる翳りを表現して理解を示してくれる方は多くはないでしょう。

 

舞妓さん、芸者さんの真白に塗った顔を綺麗だと感じないのはなぜでしょう?
あの化粧は、仄かな炎を使って灯りを得ていた時代のものなのですよと言われると、なるほど と思います。
金箔を纏いキラキラの仏さまより、黒く色褪せた仏さまのほうがありがたく感じるのはなぜでしょう?
薄暗くてよく見えないご本堂の奥の方で、僅かに入る光を反射する金色(こんじき)だからこそ、神々しいのです。

よく見えないと人はその部分を想像し、補い、それぞれ独自の世界を見ることができるのですね。

能、文楽など照明装置がなかった時代に生まれ、成熟した日本の芸能は、陰翳のうちに美しさを発見し、やがては美の目的に沿うように陰翳を利用するようになります。

 

谷崎潤一郎は、「まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。」と言っています。

 

お風呂で試しますと、とてもリラックスして寝てしまいそうになります・・・。
シャンプーとリンス、薄暗いとどっちがどっちかわからなくなるのですが、シャンプーのボトルにはその脇腹に複数の突起があるのをご存知でしたでしょうか?
リモコンや電話器の「5」に小さな突起があるのをご存知でしたでしょうか?

翳りのうちにある美の話とは少しずれてしまいましたが、入ってくる情報が少なくなれば、新しい何かに気がつくこともありますよ、ということで・・・。

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