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原寸図

実物大の図面を原寸図といいます。
近代建築では、原寸の立面図を作成する機会はあまりありませんが、寺院建築では必ず原寸図を描き、屋根の垂れ方、軒先の反り方、細かな部材の寸法、構造材の納まりなどを確認し、図に合わせて型板を作り、その型板を材木に当てて削り出していきます。
こんな仕事を知ってしまえば、大工はやめられないでしょう。
できることなら設計だけでなく、技術を身につけて、自分の手で拵えてみたいものです。

kouhai.jpg  向拝の組物(右上は1/30の立面図)
kaerumata.jpg 蟇又という装飾板と軒先納まり


用と美を求め、軒の出は時代とともに深くなり、垂れないようにハネ木という丸太の天秤棒を軒先に差し入れ、それを隠すために二重の軒天井になっていきます。
建物を頑丈にすればするほど重量は増え、見た目も大きくなり、そのためにまた構造材を大きくするという、現代建築にも当てはまる矛盾です。

kouran.jpg 高欄(手摺)の原寸型板 zaimoku.jpg 加工を待つ無地のヒノキと、ヒバ材


軒先の反りは威厳を現すだけではなく、大建築の錯覚矯正でもあります。
深い軒庇を水平のまま出すと、垂れ下がって見えてしまうので、軒先を反り上げます。
材木も軒先に行くにしたがい、高さ寸法をだんだん大きくして勢いを出します。
時代をさかのぼるほど、反り始めの位置も建物の中央に近くなり、細工も凝ったものでした。


古代ギリシャ建築などでも、本来水平であるはずの基壇を曲面状にむくらせる、垂直に建てる柱を内側に倒す、等々建物を美しくみせる寸法調整の技巧が駆使されていました。

歴史と技術に裏付けられた美しい芸術。
建築とはなんと面白いものなのでしょう!

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